空間のサウンドデザインとは
空間をデザインする目的は、人々が快適で心地よく、あるいは楽しく過ごす環境にするためです。
そのために建築デザイン、インテリアデザイン、ライティングデザインなどあらゆる分野で優れたデザイナーが育ってきました。
しかし、サウンドデザインはまだ事例に乏しく、デザイナーも少数にとどまっています。
なぜ? それは、デザイン=意匠と解釈されるように、デザインの多くが“視覚”で認識されるものだからかもしれません。
人間は情報の80%を視覚から得て、残りの20%を聴覚や嗅覚・触覚から得るとされています。
日々の生活の中で、音(生活音や都市の音・自然の音など)は、言語(話し声)を除いて、目に見えるものほどには強く認識されません。
見ることが出来ない香りや音のデザインは、最近になってようやく認識されてきたものなのです。

 

音と音楽
私たちがサウンドデザインという言葉を使うと、「音楽を作っているのですか?」と聞かれます。
音=音楽というイメージが強いからでしょう。
音楽は人間の根源的な感情(喜びや悲しみ・怒りや愛)を表現し、神や自然への祈りや怖れを表現してきました。
音の世界で“音楽”は大変に重要なものです。そして、音楽は人の歴史を超えて生き残る強い力を持っています。
ですから、サウンドといえば“音楽”であり、サウンドデザインというと音楽を制作していると思われることが多いのでしょう。

 

音の力
しかし、自然音や生活音なども、人の感情に訴えかける大きな力を持っています。
特に日本など四季の変化を持つ地域では、春の訪れを鳥たちのさえずりで知ったり、せせらぎの音からさわやかな涼しさを感じたり、
また調理の音に母の姿を思い浮かべたり・・・。
音はとても豊かな世界であり、人々の心にさまざまなイメージを呼び起こす力を持っています。

 

サウンドデザイン・ジャパンは、音楽を含めた“音”の分野で空間をデザインしようとしています。
インテリアや照明などの空間デザインと同じく、「人々が快適で心地よく、楽しく過ごすことのできる空間を作る」という目的のために。

音の力(可能性)を空間に活かす
空間のデザインが重要視されるようになって、プランナーたちは音の可能性にも気が付き始めました。そして、天井のスピーカから聞こえるBGMが本当にこの空間にふさわしいのか?と疑問を持つ人たちが増えてきたのです。

 

音は時間の表現
建築空間が出来上がると、その空間には時間が流れはじめます。
晴れの日、雨の日、人々がそこを訪れ、互いに出会い、語り合い、食事をし、好きなものを買い・・・その間に差し込む日差しは移り、やがて美しい
照明が灯ります。
つまり、すべてのデザインが時間の流れの中で美しく調和してこそ、快適で心地よく楽しい空間だと感じてもらえるのではないでしょうか。
音も時間を必要とします。音楽であれ自然音であれ、時間がなくては音は成立しません。つまり空間のすべてのデザインと同じように、音も時の流れを作っていくのです。

 

音はメッセージ
「優れたデザインにはメッセージがある」と言います。メッセージはイメージあるいは感情と言い換えても良いでしょう。
デザインされた音は、聞く人の心の中にイメージを育て、聞く人によって吟味されるものです。
私たちは、聞く人の心に「ある種の感情を」呼び起こす音創りを目指しています。
イメージや感情は、個性と文化から構成されます。個性は聞く人それぞれの感性。 文化はその背景にある地域・民族・時代・様式・思想・技術
・教養・生活・環境などから生まれるものです。
インテリアや照明のデザイン同様に、音のデザインでも、必ずそのような背景を理解することが必要なのです。このプロセスを経て「サウンドデザイン」が生まれてきます。

 

音は物理的な現象
音の原理を少し考えてみましょう。
音は物と物がこすれたりぶつかったりして振動することで生まれます。
その振動は空気を震わせながら、ちょうど池におちた小石で波紋が広がるように周囲へ伝わっていきます。
振動は空気の密度や温度によっても伝わり方(速度)が変わりますし、なにしろ空気ですから、途中にある壁や物に当たれば跳ね返されて、それが反響となってこちらへ返ってきたりします。
このように、音を理解するためには物理的な原理を知る必要があります。
また、どうして人間は音を聞くことが出来るのか…人間の聴覚を理解することも大切です。人間が聞き取りやすい音、方向や遠近を聞き分ける仕組などを理解すれば、そのための音作りが容易になります。
つまり、音の出る場所と聞く人の耳の位置の関係を考えることが、聞きやすい=心地よい空間をつくるために必要なことです。

 

他のデザインと調和する音響システム
スピーカーやアンプ・プレーヤーなどには工業デザイン的に高く評価される物がたくさんあります。音質もさることながら、人々は製品のデザインにもこだわってきました。そのデザインは「見せる」デザインで、商品としてのデザインです。
しかし私たちは、あえて見せる音響システムを意図してきませんでした。
インテリアやライティング、ファブリックなどでデザインされた空間に調和する音が目的ですから、基本的にスピーカーなどの音響システムは「見えない」あるいは、見えるとしても他のデザインとの調和を取るという考え方で機種を選択しています。

 

コンテンツとシステムの調和がサウンドデザインを完成させる
どんなに綿密に考えてデザインしたサウンドコンテンツも、それを使用する空間の状況によって結果が大きく変わります。とても“うるさい”空間(環境)だったり、雨や風の影響を受ける空間だったり。特に個人で“音楽を聴く”のと、空間の中で“音が聞こえてくる”という状況では受け止め方が全く違います。空間のサウンドデザインと、個人が楽しむ音楽や音は、全く別次元のものだということを理解してください。
そのうえで、私たちは空間の条件(建築音響的な条件、施設としての運用条件など)をひとつひとつ洗い出し、悪い条件はそれを補正し、足りない
条件はそれを補い、優れた条件はそれを活かしてサンドデザインを行いたいのです。
ですから、音響システムとコンテンツの両方からサウンドデザインのアプローチをすることが重要になってくるのです。

 

サウンドデザインは空間デザインのなかで生きる
はじめに書いたように、空間が「快適で心地よく楽しく」なるためには、あらゆる分野で優れたデザインがなされ、しかもそれが美しく調和しないと実現しません。すべてのデザインが人間への心配りと、互いのデザインへの心配りをする必要があります。
サウンドデザインだけで、良い空間は出来上がりません。
建築デザインと。インテリアデザインと。景観デザインと。そしてライティングデザインと調和してはじめて、その力が発揮されて生かされるのです。